「五感」を日々、できるだけ使い、動け。
「働く」という字は「人が動く」と書くが、失業したりするととたんに動くのを止めて家の中にひきこもってしまったり、あるいはネット喫茶で終日マンガなどを読み時間をつぶしてしまう人がいる。
ネット喫茶がよくないと、言うつもりはない。ただし一箇所に引きこもって、動き回るのを止めてしまうこと、これは悪い。
なぜなら、働く、すなわち社会において、あなたという「個」が動き回ることを止めてしまったなら、あなた自身の「五感」がどんどん退化してゆくからだ。
そして社会の中で動き回るという感覚が鈍っていき、会社で働いている人たちとの時間感覚との間に、徐々に乖離を生じるようになってゆく。
すなわち、「社会の中で人と交わることで得られる、人生の喜怒哀楽の生々しい手ざわり」のようなものを体感するセンスが、失われていく。
自分の表情や感性が、生きているのか死んでいるのかわからない能面のようになってしまうのをイヤだと思う人は、自分なりに意識してそのようなセンスを失わないように、心がける必要があると思う。
そのために、二つ提案をしたい。
一つは、動くこと。外に出て動き回ることそのものが大切なんだと、いつも意識しておくこと。
もうひとつは、いわゆる「五感」を、日々働かせるよう努めること。
「五感」を研ぐ方法論については、ひとつだけ例をあげたい。
たとえばあなたはいつも同じ、または同系統色の服を着て日々を過ごしてはいないだろうか?
一週間ぐらいずっと、グレーのすすけたスウェット姿のまま過ごしていなければよいのだが(笑)。
色の持つパワー、色彩というものが心理に及ぼす影響に多大なものがあるということは、あなたもすでに知っていることだろう。
いろいろな「色」を、見てみる。目に焼きつける。そして、これまでの自分なら絶対に着ることのないような色の服を着て、街に出てみることをオススメしたい。
闘争心をかきたてる色の代表は「赤」。
落ち着きを出す色は「茶」。就職試験の面接では、背広の定番はなんといっても「濃紺」か「グレー」だ。
面接官が色を通じて受ける心理的印象というものが、明らかに存在している証だ。
だから、あなたは身の回りのいろいろな「色」を日々とりかえるように配することで、色を見て感じる「視覚」に変化をもたらすことができるわけだ。
この一週間ずっと家でグレーのスウェットをきてゴロゴロすごしているなら、赤のセーターやライトイエローのシャツなどを着て、街中に映画でも見に行くというのはどうだろうか。
赤いセーターなんか生まれてこのかた、着たことがない…という中高年の方も多いだろう。
私もそうだった。最初に袖を通したときの、息詰まるような自分が自分で無いような感覚は、今でも忘れられないくらいだ。
しかし努力の甲斐あって、今では赤い色のセーターを着るのが好きなオジサン(笑)になった。
一口に赤色といっても、微妙に色が違うものだ。ある赤色は自分にピッタリくるが、この赤色は好きになれない…などと、細かい部分にも、目がいくようにもなってくる。
ということで、オジサンたちは勇気をふるって、明るい色の服を着ることにチャレンジしてほしい。
家族や友人の意見も取り入れて、新しい自分の姿を発見してほしいものだ。
そして、街中にでたら、道を歩く人々のファッションを観察してみる。
テレビのニュースなどでは、たとえばオバマ大統領や安倍総理の背広の色やネクタイに、毎回注目してみるとよい。
あなたはふと、気づくはずだ。
会社員時代は、自分に関係のあるごく一部の世界しか見ていなかったことに。
通りすがりの通行人など、これまでは道端の石ころと変わらないくらいの感覚だったことだろう。
しかし、自分とまったく無関係な人を遠くからみて、「服の色が似合っているな…」とか、「もっと明るい色の服を着ればよいのに…」、などととりとめのない観察を続けていると、この社会が人の集合から成り立っていて、この世界が自分の思っていたよりもずっと広くて奥行きが深いものだと感じる瞬間が、たぶんあるはずだ。
色を通じて視覚を磨く例をあげたが、残りの四つの感覚についても同じように、いろいろなアプローチが工夫できるはずだ。
聴覚なら、音楽。味覚なら、珍しい料理。嗅覚なら、アロマなどはどうだろう。
無意味な行為だと、思うだろうか?
あなたはそうしている瞬間、「視る」ことを通じて色彩に対する感覚を磨いているのだ。
色の乏しい室内やネット喫茶にこもるだけでは鈍る一方の、外の世界へ接触する感覚を鍛えなおしているのだ。そう考えてみてはどうだろうか。
こんな話、中高年の転職・就職にいったいなんの関係があるのだ、と思った方。
アナタは、アタマの筋肉がすでにコチコチに凝り固まっているおそれがある(笑)。
今の世の中、仕事を得たければ、仕事のことだけを考えているのはむしろダメなのだ。
もう一度言うが、働くということは「人が動く」ということ。
動き回り、社会や人と接触し五感を研ぎ澄まして、世の中に向き合う気持ちを持つこと。
自分以外の他の人たちが、同じようにこの社会で動き回っているのだと、皮膚感覚で実感すること。
そういう感覚さえ保っているなら、いつかは社会のほうからあなたに接触してきて、その再びの参加を求めてくることだろう。
社会の動きの中に再び飛び込んだその日から、これまで何事もなかったかのようにバリバリと働けるように、パソコンでいうところの「スタンバイ」の状態を、自分なりに工夫して保ちつづけるようにしたいものだ。
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